著者
内村 和至
出版者
明治大学文学部文芸研究会
雑誌
文芸研究 : 明治大学文学部紀要 (ISSN:03895882)
巻号頁・発行日
no.123, pp.17-28, 2014

ロードスのアポロニオスによれば、英雄イアソンはアルゴー船を仕立て、金羊の毛皮を求めて旅をし、艱難の末、目的の地コルキスに辿り着いた。コルキス王アイエテスは面従腹背、難題を持ちかけてイアソンを殺そうとしたが、イアソンに恋をした王女メディアの手助けによって、イアソンは金羊の毛皮を手にし、メディアを伴って、コルキスを逃れ去ったのである(『アルゴナウティカ』)。というだけでは、何のことはないような神話だが、私がこの話に心引かれるのは、実はメディアは恋する乙女というだけではなく、魔女でもあるということだ。メディアは地母神ヘカテを呼び出して魔術を行う。ヘカテが魔術を施すのは夜道の十字路や三叉路で、そのため、ヘカテは月の女神に因んで「三叉路のアルテミス」とも呼ばれる(大修館『ギリシア・ローマ神話辞典』)。
著者
生方 智子
出版者
明治大学文学部文芸研究会
雑誌
文芸研究 : 明治大学文学部紀要 (ISSN:03895882)
巻号頁・発行日
no.128, pp.51-68, 2016

谷崎潤一郎は、大正期において、分身関係をテーマとした小説を多数発表した。また谷崎のみならず、芥川龍之介や佐藤春夫ら大正期の作家たちも分身小説を執筆している。大正期の文学作品の特徴について考察した川本三郎は、分身小説が生み出された背景に近代特有の時代状況があると論じる。近代とは、産業革命以降、目まぐるしい技術革新に伴って社会変化がもたらされた時代であり、近代に生きる者は、時間的・制度的な安定を失って「近代の特有の病い」としての「自己分裂という現象」に直面することになった。分身小説はこのような近代の体験としての「自己分裂という物語」を描いたと述べる。また、渡邉正彦は、近代という時代に生きる人聞の状況をテクノロジーの体験として問題化し、分身小説は、映画という技術によってもたらされたと論じる。
著者
内村 和至
出版者
明治大学文芸研究会
雑誌
文芸研究 : 明治大学文学部紀要 (ISSN:03895882)
巻号頁・発行日
no.119, pp.27-53, 2013

「万国旗本」とは、私が仮に名付けたもので、学術用語ではない。言う心は、「幕末、外国船来航に沸き立つ時期に編纂された、世界の国旗・都市旗・軍艦旗・商船旗などを記載した本」の意である。と言っても、私は、文化史的観点から「万国旗本」そのものを研究対象としているわけではない。本稿の目的は、幕末戯作研究のかたわら管見に入った数冊の「万国旗本」に触れつつ、その背景をなす時勢や人間関係を瞥見することである。わずか数冊の「万国旗本」を通しても、幕末の時代風景は垣間見えてくるからである。しかし、それでもなお、「万国旗本」なる定義は、研究の立場としては傍系的に過ぎるであろう。本来、これらは幕末維新史研究もしくは近世地理学史研究の文脈に置かれるべきものである。